ETERNAL BLAZE
著者:shauna
編集:上総かんな。


最近の俺、佐藤一樹(さとう かずき)はちょっとおかしい。
気付くと彼女、水木真由(みずき まゆ)のことばかり見ている。

 ―真由か……ちょっと前までは意識もしてなかったのに……―

 「……キン………カズキン………」

 ―なんでだろ……、高校入るまでは何ともなかったのに……―

「おーい。カズキン。聞いてる?」

いきなりの真由の顔のドUPが目の前にあった。





「うわぁ!」

ぼーっとしていて気付かなかった。おかげで17にもなって初めて漫画のようにわけのわからない悲鳴とともに椅子ごとコンマ二センチの如く倒れた。

「い!いきなり現れるな!!」

一樹の痛そうな顔をよそに真由は呆れたような顔で一樹を見下ろしていた。

「もう2分ぐらい前からここにいたんだけど……。どうしたの?」

「いやっ!ちょっと考え事してて……。」

あなたのことを考えてましたなんて甘いセリフは佐藤一樹のプライドに掛けて口が裂けても言えるものではない。

「考え事?何?どうせまたクッダラないことなんだろうけど……。」
「無!無礼な!」
「いつの時代の人間なの?」

く!こいつ人の気も知らんで!……いや、知らない方がいいのだが……。

「で、何しに来たんだ?わざわざ隣のクラスまで……。」
「あっ!そだそだ!忘れるところだった。」

こっちの気持ちを悟ることなど無い真由は机の横からズイッっと体を寄せて……。

「天下の秀才。カズキ様に一つお願いしたいことがありまして……。」
「な…、何だよ……。」
「宿題見せて〜〜〜〜♪」

思いっきり胸に飛び込んで顔を擦りつけてきた。

ちっ近い!!顔が近い!!

途端に心臓が跳ね上がった。
しかし、こんなことは日常茶飯事の為クラスの注目を集めることなど無い。
なぜなら俺達………、許嫁ですから……。


真由は小さい頃に親を事故で亡くして佐藤家に引き取られ、血のつながりは一切ないものの、水木家の親父と佐藤家の親父が親友同士だったらしく―許嫁というのは酔った勢いで決まり、特に問題は無かった為、訂正すら行われなった。―その後はあたかも双子の兄妹のように育てられた。

(許嫁の事実を知ったのは彼女が佐藤家に来た一樹中学3年の春のことだった。)

もちろん家が近かったせいでほとんど毎日のように会っていたので恋愛感情などは当時は微塵も無かったのだが……、

今の気持ちを親父が知ったら何と言うか……。

きっと家を挙げてのパーティーをするに違いない。

「た…、たまには自分でやれよ!おっ、教えてやるから!」
「え〜、そんな時間ないよ〜……。ねっお願い!後で何でも言うこと聞くからさっ。あっ!お金以外なら……。」
「なっ!!」

コラコラ!女の子がそんなことをまるで“ハンバーガー奢ってあげる”ぐらい軽く言うものではありません!

でも……。

「ったく……じゃ、“貸し”にしとくからな……。」
 「やたーーーー☆!!!」

真由が……何でも……。よし………。



放課後……。

「おーい。カズキン。言われたとおり時間どーりに到着いたしました。で、用事ってなにかな?」
「あっと……、その……。」
「放課後に人気のない校舎裏に二人っきり……♪、これって、『実は俺…、お前のことが!!』ってシチュエーションだよね〜〜。」

大当りです。でも、今回呼び出したのはそんなトップシークレットを話す為ではありません。

しかし……。

いきなり確信をつかれたのに焦らないで次の言葉を優先出来る程、一樹は出来た人間では無い。

「ばっ!!ちが!!!」

まんまと真由のペース。

「それともカズキン。模範的な生徒に見えて実は『ちょっと面貸せや!』の方かな?」
「うるさい!茶化すな!!!////」

とにかくペースを自分に戻さなくては……。

「しゅ、宿題の借り……、今ここで返して貰おうと思って……。」
「今ここで?別にいいけど……。」
「じゃ、じゃあそこで目を閉じろ…。」
「へ?」

真由は言われるままに言われた通りの行動をする。
普通ならここですることと言えばキスに他ならない。


 でも、


残念ながら一樹はそれほど度胸が据わってはいない。
だが、このままズルズルとこの気持ちを引きずるつもりも無い。


 だから……。


せめて手ぐらいは繋ぎたい。

「ねえ、いつまでつむればいいの?」
「開けんなっ!!まだだ!!!」

大丈夫。一応許嫁なんだし、軽いノリのお茶目ないたずらってことにすれば……、き…、きっと大丈夫なはずだ!
心臓がバクバクとどんどん高なっているのを感じる。
真由の手を握ろうとして汗をかき、ぷるぷると手が震えてきた。
喉が一度だけ、ゴクっと鳴った。


ドキドキドキドキドキドキドキドキ………。


何、焦ってんだ!大丈夫!大丈夫だって……。
あとちょっと……、あとちょっと……。

 パチッ

「うおおおおおおぉぉぉ!!!!!!!!!」
「わあああぁぁぁ!!!!!」

いきなり目を開けた真由におもいっきり声を上げて後ろに跳び、真由もその声を聞いて驚き声を上げた。

「ぁあぁあああ!……な!何、目開けてんだよ!!!」
「ふぇ?……いや、その……もういいのかと思って……。」

焦りまくる一樹をよそに、真由の方はどんどん冷静さを取り戻していった。

「それより、カズキン…。今……何しようとしてたの?」


          ―ギクッ―

まずい!!!完全に真由の目がドSモードに入ってる!!!!これは!!!苛められる!!!!!

「……や、あの……あはははは!……ちょっとイタズラしてやろうと思ってさ……。」

だ!だめだ!この気持ちを気付かれたらきっと!!!

「まったく!真由ってホントにガード甘いんだから!!!そんなんじゃ他の男に……。」

きっと……、今までの関係ではいられなくなる……!

「それにしても!さっきの真由!すごい顔して……。」


   あれ……?


目からホロホロと涙がこぼれてきた。

―なんで!?なんで泣いてんだよ俺!―

「ひっ…、ひっかかって……、ふっ……、ま…ゆ……の……。」

―最低だ……、何やってんだよ俺……、カッコわりぃ……。止まれ……止まれよ……!―


ギュッ・・・・


あまりにも唐突過ぎて、何が起きたのかまったくわからなかった。暖かくてやわらかな手の感触を感じたのは少し経ってからだった。
一樹の手を握ったまま、真由はクスクスと笑っている。

「カズキンってさ……、努力家だから勉強はすごいできるけど……、時々、バカな子だな〜って思うことがあるよ。」

真由は手を離すとキョトンとしてる一樹の頭を「よしよし」と言いながら撫でた。

「別に手ぐらいいいよ、減るモンでもないし……。最初はキスされると思ってたのに……。」

手を一樹の頭から離して……。

「ていうか、泣くほど手ぇ繋ぎたかったんだ〜カズキンってば萌え〜。女の子だったら本気でグッとくるよ〜。」
「なっ!ちが!!!」
「じゃあ、もう二度と繋ぐのやめる?」
「うっ・・・。」



「………ヤダ。」
「ヨシヨシ(はぁと)」
「う"ぅ〜〜〜〜〜………。」

屈辱だ。





「どう?満足した?」

 手を繋ぎ直して、しばらくの時間が経っている。

 真由は西の空に沈んでいく夕陽を見ながら・・・

 「あー・・もう結構な時間だねー。あんまり遅いとおばさん心配するし、そろそろ帰ろっか?」

 そう言って再び手を離して、鞄を持ち、入口の方に歩いて行く真由の制服の袖を一樹はうつむきながらつまんだ。

「ごめん……、もう少しだけ……。」
「……仕方ないな〜。」

真由は苦笑いしながら鞄を地面に置き直して再び一樹の手を握った。



20分後……。

冬の早い日はとっくの昔に落ちていた。
すでに遠くに見える通学路では街頭がついている。

「だぁ〜〜〜〜〜っ!!!いつまで手ばっかり繋いでんのっ!!!」

そう言って真由は真っ赤になって幸福に浸っていた一樹の手を振りほどいた。

「え、だって、もうちょっといいって……。」
「ち・が・う!!!あそこで引きとめたなら一気に私エンドのフラグが立って、イベント突入でしょうが!!!」
「え……イベント?フラグ?」

まごまごとしてあたふたしている一樹の顔の両頬に真由が手を添える。

「一樹がしないなら私がする!」
「ちょ!ちょっと待て!!!」

やっとのことで落ち着きを取り戻した一樹は何をされかけているのかの察しがどうにかついた。

「なに?そんなに私とするのが嫌?」

ものすごいドSな笑顔で真由が一樹を見つめた。

「そうじゃなくって……。」
「?」
「今日の最終授業(ラスト)……、体育だったし……。」
「それで……。」
「一応体は拭いたけど……、その……汗臭いだろうから……。」
「………。」
「それに、するならもっとロマンチックな所の方が……。」
「一樹……、あんた……!」

真由はものすごい加虐心をそそられたような顔で一樹に抱きついた。

「ツンデレにも程があるぞ〜〜〜!!!!キッサマーーーー!!!!!」
「ちょ!!やめろ!!!一応これでも匂いとかは気にするんだよ!!!」

抱きついた勢いで一樹が下敷きになる形で押し倒された。

「ホントにする気かよ!!!」
「大丈夫大丈夫。オネーサンにまかせなさい。」

ちなみに誕生日でいうと一樹は7月生まれ、真由は12月生まれなので一樹の方が年上ではある。

「ちょっとまて!まだ心の準備……!!」

一樹の言葉を遮って真由が一樹にキスした。
それは“手を繋ぐ”なんて比べ物にならないぐらい柔らかくて気持ちくて……。
しかも、相手は自分が大好きで大好きでたまらなかった人なわけで……。
一気に緊張で強張った体はさらに硬直し、ただただ、胸から溢れ出てくる幸福感に涙すら出てきた。

「また泣いた。泣き虫だなー……。」

真由にバカにされることは何度もあったが、今回ばかりは反論できなかった。
少し経って一樹が落ち着いてから2人は校門を出た。

「んーまだ夕飯までには時間あるね。おばさん今日は遅番の日だし……。ねぇ!帰りに何か食べて帰らない?」

「そうだな〜……。じゃ、バーガーかクレープでも……。」
「私、イチゴジャムクレープ!!!」
「ハイハイ……。」
「一樹のおごりね♪」
「なんでだよ!!」
「いいのかな〜、今日のこと……。おじさんとかおばさんとかクラスの皆にバラしちゃうぞ〜〜〜。」
「………。(泣)」

まあ、たぶん。しばらくの奴隷生活は決定だろう。
一樹の金銭難を気にすることもなく、真由は商店街のクレープ屋に向かって笑顔で走って行った。



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